
菊池寛(明治21年 – 昭和23年)による短編小説
「ここは、木曽街道鳥居峠であります。杉や檜のこんもりとした森を後に控え、一軒の茶屋があります。店先には、草餅、羊羹、干柿、せんべいなどがならべられ、細長い縁台が、二つ置かれてあります。その縁台に腰をかけた眉間に、どこか暗いかげのある男が、道を隔てた向ふ側の、老桜から散る花を、ぼんやりと眺めて居ります。この男は、この茶店の主人の市九郎です。江戸浅草のお旗本中川三郎兵衛の家に、仲間奉公をしていましたが、主人の愛妾と道ならぬ恋に陥ちたのを、主人に見とがめられ、(不義者見つけた)と霧かけられたのに、抵抗し、とうとう主人を殺して、お妾のお弓と江戸を落ち、今木曽街道に世を忍んで茶店を開いています。」ーー
このオーディオブックは、2024年11月9日、日本近代文学館で上演した「朗読タイムレスストーリーシリーズ」を新たに収録した作品です。
著者:菊池寛
朗読:長尾奈奈
制作:声の書店
協力:株式会社 仕事
再生時間:00:55:42
販売開始日:2025/4
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著者について
明治21年(1888) – 昭和23年(1948)
香川県高松生まれ。本名、寛(ひろし)。 京都帝大卒業。在学中はイギリス近代戯曲を学ぶ。第三次、第四次「新思潮」に参加。大正5 (1916)年、『屋上の狂人』『父帰る』を発表。卒業後、時事新報へ入社。記者を勤めるかたわら、大正7(1918)年「中央公論」に『無名作家の日記』『忠直卿行状記』を、大正8(1919)年、『恩讐の彼方に』を発表。以後、執筆活動に専念し、翌年、大阪毎日新聞、東京毎日新聞に『真珠夫人』を連載。『藤十郎の恋』『半自叙伝』『貞操問答』『受難華』等を発表。大正12(1923)年、「頼まれて物を云うことに飽いた」とし『文藝春秋』を創刊。芥川龍之介賞、直木三十五賞、文藝家協会の設立等、多岐に活躍した。