「あるところに一匹のコーモリがいた。それはオモチャで、ボール紙を切り抜いてその上に紫いろのアートペーパーがはりつけてあった。そして小さなゼンマイ仕掛でバタバタと飛ぶように出来ていた。ところがある日、このコーモリがどうしたのか、それをこしらえた職人の店へ帰って来た。それは街に青い瓦斯燈がまたたき出した頃で、職人がその一日の仕事を終えてその木の馬や鳥や、それからそのコーモリの弟である沢山のコーモリなどをかたづけてから、煙草に火をつけて一ぷく吸っている時であった。その時、職人はむこうの角の方から地面とすれすれに鳥のようなものがヒラヒラとこちらへ飛んで来るのを見た。しかし職人はすぐそれが自分のこしらえたコーモリであるということに気がついた。はて何かわすれた仕掛でもあったかな」ーー
著者:佐藤春夫
朗読:長尾奈奈
制作:声の書店
協力:株式会社 仕事
再生時間:
販売開始日:2026
*聴き方、販売価格、購入方法、決済方法などは、各配信サイトにてご確認ください。
ABOUT THE AUTHOR
明治25年(1892) – 昭和39年(1964)
和歌山県生まれ。中学時代から『明星』などに歌を投稿する。永井荷風を慕って慶應義塾に入学。『スバル』『三田文学』に寄せた詩で頭角を現す。大正8年(1919)『田園の憂鬱』を『中外』に発表し、作家としての地位を確立する。大正10年(1921)谷崎潤一郎夫人・千代子との恋愛のなかで『殉情詩集』を刊行し、『秋刀魚の歌』を執筆。艶美清朗な詩歌と倦怠・憂鬱を映す小説を軸に、随筆、童話、翻訳、評論など多彩な分野で活躍した。主な著作に『西班牙犬の家』『都会の憂鬱』『退屈読本』『車塵集』『晶子曼陀羅』など。