土田耕平(明治28年− 昭和15年)による童話『狐の渡』
「むかし、一人の旅人が、科野の国に旅して、野路を踏みたがへ、犀川べりへ出ました。むかうへ渡りたいと思ひましたが、あたりに橋もなし、渡も見えず、困つてをりますと、「もうし、旅のお人。」 といふ声がします。見ると、いつどこからとも知らず、一人のうつくしい顔した子どもが舟をこぎよせてゐるのでした。「渡しのコン助といふものだが渡しの御用はないかな。」 といひますので、「御用は大有りだ。早くわたしてくれ。」 と旅人は舟にとび乗りますと、子どもは艪をたくみにあやつってむかう岸へつきました。舟をおりようとして、旅人がひよいと見ますと、へさきに立つてゐる子どもの尻べたから、長い尻尾が垂れてゐました。」――
著者:土田耕平
朗読:長尾奈奈
制作:声の書店
協力:株式会社 仕事
再生時間:0:04:00
販売開始日:2024/6/26
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著者について
土田耕平
明治28年(1895) – 昭和15年(1940)
長野県上諏訪生まれ。諏訪中学を中退し、小学校に奉職。明治45(1912)年、歌を短歌雑誌「アララギ」に発表。大正2(1913)年、上京し、中学校に編入。「アララギ」の編集に携わる。大正4年秋より病身のため伊豆大島にて静養。大正11(1922)年、大島在住中の歌集『青杉』を出版。清澄閑雅な歌風で注目される。 大正6(1917)年より童話の執筆を始め、信濃毎日新聞で断続的に発表。大正13(1924)年、第一童話集『鹿の眼』を出版。病のため各地を転々としながら執筆した。歌集『斑雪(はだれ)』『一塊』、童話集『蓮の実』『原っぱ』など。