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いちょうの実(32)

いてふの実

【日本近代文学名作選㉜】

宮沢賢治

朗読 長尾奈奈

配信サイト

宮沢賢治(明治29年- 昭和8年)による短編小説
「そらのてっぺんなんか冷たくて冷たくてまるでカチカチの灼きをかけた鋼です。そして星が一杯です。けれども東の空はもう優しい桔梗の花びらのやうにあやしい底光りをはじめました。その明け方の空の下、ひるの鳥でも行かない高い所を鋭い霜のかけらが風に流されてサラサラサラサラ南の方へ飛んで行きました。実にその微かな音が丘の上の一本いてふの木に聞える位澄み切った明け方です。いてふの実はみんな一度に目をさましました。そしてドキッとしたのです。今日こそはたしかに旅立ちの日でした。みんなも前からさう思ってゐましたし、昨日の夕方やって来た二羽の烏もさう云ひました。」ーー

このオーディオブックは、2024年11月9日、日本近代文学館で上演した「朗読タイムレスストーリーシリーズ」を新たに収録した作品です。

著者:宮沢賢治
朗読:長尾奈奈
制作:声の書店
協力:株式会社 仕事
再生時間:00:08:57
販売開始日:2025/9/2

*聴き方、販売価格、購入方法、決済方法などは、各配信サイトにてご確認ください。

著者について

宮沢賢治

明治29年(1896) – 昭和8年(1933)

岩手県花巻生まれ。盛岡高等農林学校在学中より、同人誌へ短歌や散文の習作をはじめる。大正10(1921)年に上京。筆耕の仕事をしながら童話を執筆。同年、妹の病の報を受け帰郷する。農学校の教諭を務めながら数々の作品を執筆し、大正13(1924)年、詩集『春と修羅』、童話集『注文の多い料理店』を出版。農学校を退職後、羅須地人協会を設立。農業や芸術の地域活動に献身する。生前は無名に近いまま、病のため37歳で永眠。没後『銀河鉄道の夜』『風の又三郎』『ポラーノの広場』『よだかの星』『雨ニモマケズ』等、多数の作品が刊行された。