国木田独歩(明治4年 – 明治41年)による短編小説
「僕の十四の時であった。僕の村に大沢先生という老人が住んでいたと仮定したまえ。イヤサ事実だが試みにそう仮定せよということサ。この老人の頑固さ加減は立派な漢学者でありながらたれ一人相手にする者がないのでわかる。地下の百姓を見てもすぐと理屈でやり込めるところから敬して遠ざけられ、狭い田の畔でこの先生に出あう者はまず一丁前から避けてそのお通りを待っているという次第、先生ますます得意になり眼中人なく大手を振って村内を横行していた。その家は僕の家から三丁とは離れない山の麓にあって、四間ばかしの小さな建築ながらよほど風流にできていて庭には樹木多く、草花なども種々植えていたようであった。そのころ四十ばかりになる下男と十二歳になる孫娘と、たった三人、よそ目にはサもさびしそうにまた陰気らしゅう住んでいたが、実際はそうでなかったかもしれない。」ーー
著者:国木田独歩
朗読:長尾奈奈
制作:声の書店
協力:株式会社 仕事
再生時間:ー
販売開始日:2024/11
初出:明治33年(1900)「太平洋」10月
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著者について
国木田独歩
明治4年(1871) – 明治41年(1908)
千葉県銚子生まれ。山口県育ち。