芥川龍之介(明治25年 – 昭和2年)による児童文学
「ある春の午過ぎです。白と云う犬は土を嗅ぎ嗅ぎ、静かな往来を歩いていました。狭い往来の両側にはずっと芽をふいた生垣が続き、そのまた生垣の間にはちらほら桜なども咲いています。白は生垣に沿いながら、ふとある横町へ曲りました。が、そちらへ曲ったと思うと、さもびっくりしたように、突然立ち止ってしまいました。それも無理はありません。その横町の七八間先には印半纏を着た犬殺しが一人、罠を後に隠したまま、一匹の黒犬を狙ねらっているのです。しかも黒犬は何も知らずに、犬殺しの投げてくれたパンか何かを食べているのです。けれども白が驚いたのはそのせいばかりではありません。見知らぬ犬ならばともかくも、今犬殺しに狙われているのはお隣の飼犬の黒なのです。毎朝顔を合せる度にお互の鼻の匂を嗅ぎ合う、大の仲よしの黒なのです。」――
このオーディオブックは、2024年7月13日、日本近代文学館で上演した「朗読タイムレスストーリーシリーズ」を新たに収録した作品です
著者:芥川龍之介
朗読:長尾奈奈
制作:声の書店
協力:株式会社 仕事/ROUDOKU.TALKER.JP
再生時間:
販売開始日:2024/11
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著者について
芥川龍之介
明治25年(1892) – 昭和2年(1927)
東京生まれ。東京帝大英文科卒。在学中に雑誌「新思潮」(第三次)を刊行。短編『鼻』が夏目漱石に激賞され、翌年、初の短編集『羅生門』を出版。古今東西の歴史や古典より材をとり、『奉教人の死』『杜子春』『河童』『歯車』『或阿呆の一生』等、多数の作品を執筆した。