芥川龍之介(明治25年 – 昭和2年)による書簡
「加藤武雄様。東京を弔ふの文を作れと云ふ仰せは正に拝承しました。又おひきうけしたことも事実であります。しかしいざ書かうとなると、匆忙の際でもあり、どうも気乗りがしませんから、この手紙で御免を蒙りたいと思ひます。応仁の乱か何かに遇つた人の歌に、「汝も知るや都は野べの夕雲雀揚るを見ても落つる涙は」と云ふのがあります。丸の内の焼け跡を歩いた時にはざつとああ云ふ気がしました。水木京太氏などは銀座を通ると、ぽろぽろ涙が出たさうであります。(尤も全然センテイメンタルな気もちなしにと云ふ断り書があるのですが)けれども僕は「落つる涙は」と云ふ気がしたきり、実際は涙を落さずにすみました。」ーー
このオーディオブックは、2024年3月23日、日本近代文学館で上演した「朗読タイムレスストーリーシリーズ」を新たに収録した作品です。
著者:太宰治
朗読:長尾奈奈
制作:声の書店
協力:株式会社 仕事/ROUDOKU.TALKER.JP
再生時間:00:04:31
販売開始日:2024/8/22
初出:大正12年(1923)「文章倶楽部」
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著者について
芥川龍之介
明治25年(1892) – 昭和2年(1927)
東京生まれ。東京帝大英文科卒。在学中に雑誌「新思潮」(第三次)を刊行。短編『鼻』が夏目漱石に激賞され、翌年、初の短編集『羅生門』を出版。古今東西の歴史や古典より材をとり、『奉教人の死』『杜子春』『河童』『歯車』『或阿呆の一生』等、多数の作品を執筆した。